犬祭り…それは、ルディアり辺境に位置する寒村に、古くから伝わる地味な祭りである。
立ち寄る者も少ないこの村で行われる祭りの目撃例は、極めて少ない。
豊作を祈願して行われるこの祭りでは、まず、村の年男達が、神社でお祓いを受けた後、犬型の着ぐるみを着用する。
着ぐるみを着用した男達は、村をねり歩き、村人達は彼らに祝い酒を振る舞う。
出された酒は、全て飲まなければならないという過酷なルールがあり、また、過疎によって村の若者が減少する現在、この祭りは何だか大変な事になっており、一昨年村の世話役アンドレイさん(78才)が、急性アルコール中毒で隣町の病院に担ぎ込まれて以来、「やばそうだったら、お断りしてもいい」「年男の頭数が揃わない時は、それ以外の村人から有志を募る」等の取り決めが成された。
一晩飲みまくった犬役達を回収し、神社に着ぐるみを奉納して、祭りは終わる。
村には、野馳族の住民もかなりの割合を占め、「元々犬なのに、なぜわざわざ着ぐるみを着るのか?」等、謎の多い祭りである。
十年程前、着ぐるみに酷似した野馳族の男が村に迷い込み、上機嫌で酒を飲みまくって、道ばたで寝ていた所、「早く脱げ」と、全身の毛をむしられる事件が発生した。
被害に遭ったサイアスさん(当時24才)は、「飲めと言われたので、飲んだ。脱げと言われたので服を脱いだら、毛までむしられた。一体どういう事なのか」と、困惑した表情で語ったが、ただ酒を飲めておおむね満足そうだったという。
この祭りは、現在もルディアの山奥で、秘かに行われている。
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